アーティスト

Spinnup アーティストインタビュー:Tok10

メルヘンチックに愛を奏でたかと思えば、突如としてダークサイドから世界をせせら笑うー、変幻自在のZ世代ラッパーTok10(トキオ)。MCバトルで磨かれた直感的で鋭いライミングスキル、そして様々なジャンルの音楽をポップに呑み込んでアウトプットする天性のセンスで紡がれた楽曲が、SoundCloudやYouTubeでの総再生回数200万回を超えるなど、大きな支持を集めている。セルフプロデュースを行い、音楽でマネタイズする手法を公開するなど、自らが「アートで食える」モデルケースとなることで同世代のアーティスト活動を支援し、日本でのアート業界全体の活性化を目指している。キャリアのスタートから制作の柔軟なインスピレーションの源、そしてZ世代のアイコンとしてこれからの社会を担う若者らしい考え方までを語ったロング・インタビューを公開。

 

アーティスト活動と並行して現役の大学生ということですが、何を学んでいるのでしょうか?

現在は人と人、そして人と自然との分断について考えていく中で、音楽を使ってそれを繋げていく方法を模索しています。具体的には、自然を感じられる環境のなかでイベントを企画して、音楽で人同士や自然との隔たりをなくしていけるようなものを目指すとか。もともとは今の大学に入ることになったのは映像制作をしていたことがきっかけなんですが、学生のチャレンジを積極的に応援してくれる風土なので、受講する授業をそのときの興味関心のあるものに合わせて変更できるんです。

 

アーティストを志したのはいつ頃なんでしょうか?

実はこれまで、明確にアーティストになろうと思ったことはなくて。ただ、昔から漠然と自分の力で世界を変えたいという気持ちを持っていて、その思いを強く実現したいと思うようになったのは16歳くらいのときですかね。SNSの投稿の下書きにポエムがどんどん溜まっていくくらいに病んでいた時期があって、笑。実際にそれは投稿しなかったから人に向けてなにかを発信したわけではないんですけど、今思うとそれが自分の中にあるものを表現してみようと思うきっかけだったのかもしれないです。

 

キャリアのはじめはバトルやサイファーでスキルを磨いていったそうですが、そのきっかけとなったのは?

留学中していたときに、日本でなにが起きているかチェックするためにYouTubeを見ていて、そこでたまたまフリースタイルダンジョンとか高校生ラップ選手権が目に入ってきて。即興でラップをしている人たちの凄さを知って、MCバトルというものに興味を持ったんですよね。地元ではサイファーができるような場所もなかったから、はじめて自分がバトルに参加したのはツイキャスでした。通信環境のせいで音もすぐズレたりするんですけど、そこで知り合った仲間と競い合っていましたね。

 

現在行っている楽曲制作とMCバトルは別のフィールドのものであるように思いますが、バトルで身についたことで今の制作につながっていることはなんですか?

MCバトルやサイファーは、やっぱり単純に上手い人がカッコいいんですよ。相手を言い負かすことよりも、ラップ自体のリズムとかテクニックのある人に憧れたし、そういう部分に惹かれていて。そこをもっと追求しようとしたときに、即興のバトルを重ねていくよりも、自分の表現を作り込んでみたいと思うようになったのが制作をはじめることになった転換点ではありました。でもバトルを通じて仲間とライバル意識をもってスキルを高め合うといった環境があったことは自分にとってすごくプラスになったと思います。その技術をその場で出し切ることが重要な即興というものは、もちろん作り込む作業よりも難しいです。だからこそ、自分にとってはじめてのステージがバトルだったことで、度胸がついたり、声の出し方のポイントがわかるようになったり、パフォーマンスの下地が身についたように思います。

 

”言葉を紡ぐ”ということに関して強いこだわりを感じますが、これまで受けた影響やインスピレーションの源は?

最初はとにかくバトルのために”韻を踏む”っていうことしか考えていなかったので、笑。とにかくボキャブラリーを増やそうと思って、本の中の単語で韻を踏む練習をしてみたりしていました。言葉のつかい方で影響を受けたのは中学生の時にずっと聴いていたRADWIMPSの野田洋次郎さんの歌詞だと思います。その時の自分にとっては「こんなことを言ってもいいの?」と思えるようなフレーズがあったりして。自分で制作をするようになって最近またあらためて感じたのが、アーティストとというのはきっと、ふつうの感覚では口にすることのないような、言うのをためらってしまうほどに恥ずかしいことも表現しないといけないものなんだなって。自分がそのことにはじめて気がつかされたのが、RADWIMPSの歌詞でした。

 

ちなみにTok10というアーティストネームの由来は?

本名が ”十希夫(トキオ)” なんです。数字の10が印象的な名前だし、アーティストネームにそれを入れたくて。バトルをしていたときにいろいろなMCネームを試してきたんですが、自分が好きな本来の名前を大事にしていきたいと思うようになって、変えましたね。

 

Tok10を語る上で「Z世代」というのがひとつキーワードになっているとも思いますが、ご自身がZ世代として語られることについて感じることや、実際に上の世代との違いや隔たりなどを感じることはありますか?

同世代についてはやはり、環境問題やLGBTQなど、社会問題へ高い関心を持っているように感じますね。アーティストとしては、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる世代で、音楽を作って届けて収益化するまでの流れが全部自分でできてしまう。クリエイターになりたいと思えば、誰もが気軽になれるといった環境がすでに整っていることは、上の世代よりも恵まれていると思うし、自由だと思います。ただ、その環境を活かして、個性が強かったり特技があったり、デジタルメディアやプラットフォームの使い方が上手い人たちが社会でどんどん認められていく流れがある中で、日本の学校教育ではそういった個人の特性を伸ばすことよりも、学業での優秀さや集団における従順さばかりを要求するような傾向があるなと思えて、そこに大きなギャップを感じます。いい大学でいい成績をおさめることだけが、成功につながるとは言えない時代だからこそ、社会に出るときに実際に必要なものと、学校で受けている教育に隔たりや矛盾があることを強く感じている世代だとは思いますね。

 

そんな時代において、自分が ”アートで食っていく” と決意して、それをプロジェクトとして実行しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

作った楽曲を自分で実際に音楽配信サービスにアップして、それが収益につながった瞬間に、「実際に自分の好きなことでお金を生み出すことができるんだ」というのを実感できたというのは大きいですね。好きなことをしてお金を稼げるなら、それが自分には1番向いているなと、笑。でもいざ「アートで食っていく」となると、そんなのは甘い考えだと言われたり、まるで社会不適合者みたいに扱われる場面がいまだに多いですよね。でもぼくは、アーティストの作品が人の心を動かして、それが世界をより良いものに変えていると本気で思っているんです。日本は特にアーティストの社会的地位が低いので、自分でやっていくからには、アーティストはお金がなくて不幸だとか、アートが社会の役に立たないだとかいう認識自体を変えていきたいという思いがあって。自分自身がアートで稼げるということを実際に示していくことで、周囲の若いアーティストがチャレンジをするきっかけになったり、業界全体を盛り上げられたら、という気持ちではじめました。

 

実際にアーティストとして生計を立てる上で、現状1番難しいと感じる点やハードルは?

インディペンデントでセルフプロデュースをしている自分にとっては「モチベーションを高く保ちながら続けていく」ということが意外に難しいと感じることではありますね。ふつうの仕事のように納期が迫ってくるわけでもないし、他人にやれと言われることもないから、結局すべてが自分のやる気次第なんです。現状単純に自分が好きでやっていることのはずが、結局やらなければならない仕事であるとか重積のように感じてしまうと、この先自分のモチベーションにも影響してくるだろうなと。

 

自分含め、今後若手のアーティストは具体的にどういうサポートが必要だと感じますか?

そういったモチベーションのコントロールも含めて、プロモーションのサポートや事務的なこと担ってくれるエージェント的な立場の人がいるとアーティストが制作に集中できるようには思います。

 

同じセルフ・プロデュースのアーティストとして、気になるアーティストはいますか?

最近ではWurtSというアーティストのプロモーションへの取り組み方がおもしろいなと感じてチェックしています。TikTokをうまく活用していたり、アートワークや映像制作まですべてご自身で手掛けられているのですが、「BOY MEETS GIRL」という楽曲のミュージックビデオの「見せ方」が興味深くて。バニーガール姿のかわいい女の子を登場させているんですけど、その映像のコメント欄が女の子の感想でいっぱいになるくらいに印象的なんです。アーティストはバズらせるための戦略としてあえてやっていると思うんですが、楽曲のシニカルな内容とはギャップのある画作りなんです。自分には時々アーティストとしてのプライドというものが、ユーモラスで柔軟な発想の邪魔になることを感じる瞬間ってあって。自分のスタイルに固執したりだとか。たとえば、もし自分だったら単純にカッコよさを追求したいと思うような場面に、あえてコミカルな表現やブラックジョークみたいなものをぶっ込んでいくようなセンスがいいと思うし、その手段を選ばない感じというのも、気合が入っているなって思えて好きなんですよね。

 

ご自身も映像制作の経験があるとのことでしたが、ミュージックビデオのプロデュースは自分で?

既出作品のうち一本だけ完全に委託しましたが、その他のビデオについては大学の先輩とロケハンしてストーリーを考えながら作っています。でもいずれ、撮影から編集まですべて自分の手でできるようになりたいですね。たとえばそのメイキング映像を作ってアップするだとか、Vlogger的なこともできたらと。音楽だけが自分のアイデンティティではないと思っているし、それ以外の部分を見せられるようなことができたらいいと思います。とくに音楽は、映像も含めての総合芸術になりえるものなので、チャレンジしがいもあります。いつかきちんと物語を作って映画を撮ったりもしてみたいです。

 

好きな映像作家は?

グザヴィエ・ドラン監督の作品が好きですね。映画の中に「ドランに視えている世界」というものが表現されているんです。人の顔に落ちる影だとか、カーテンをさっと開けた時にたつホコリひとつに、美しさが感じられて。そういう部分に魅せられるので、あんな映像を撮ってみたいなと思います。

 

アートワークのイラストも視覚的にとても印象的なのですが、どなたがが手掛けているのでしょうか?

自分が上京して曲をつくりはじめてから、ずっと仲のいい友達でもある、DENYEN都市というヒップホップグループのメンバーの浅井杜人が描いています。言葉で伝えたイメージを、彼の世界観に落とし込んで作ってくれるんです。

 

インタビューの最後に、これから新たに自分を知ってくれる人に向けて、名刺代わりの1曲を紹介してください。

では、自分自身が昨年1番聴いていた曲でもある「Hot Girl」を。恋愛のことを歌っている感じなんですが、芯の部分では自分との対話がテーマだったりします。恋愛を通して自分自身と向き合っているような感覚というか。共感できる部分をみんなに見つけてもらえたらうれしいし、メロディーも気に入っているので、よかったら聴いてみてください!