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リック・ルービンに学ぶ

リック・ルービンは現代で最も成功し、称賛されているプロデューサーの一人です。グラミー賞を獲得した作品は8作品にものぼり、Adeleの「21」、Red Hot Chili Peppersの「Stadium Arcadium」といったアルバムのプロデュースを筆頭に、ヒップホップをメインストリームへ押し出すための先駆的な取り組みや、The Strokes、Kanye West、Rage Against The Machine、James Blake、Justin Timberlakeといった多岐にわたるヒットアーティストの作品プロデュース実績は、まさに巨匠がなすべき仕事といえるでしょう。

楽曲から余分な肉をそぎ落として息を吹き込む「less is more」と称されるアプローチでルービンは世界中へその名を馳せ、彼にしかできない匠の技は各国のビッグアーティストから求められるようになりました。過去の経歴からも、ルービンは評価の分かれる人物といえますが、すべてのミュージシャンはそこから、多くの革新的な思考を学ぶことができます。

予期せぬマジックを生み出す

1986年にRun-DMCによって行われた、Aerosmithの1977年のヒット曲 “Walk This Way” を再構築して、ラップとロックの世界を融合させるという試みは、ルービン当時の友人、Spin Magazineの編集者であったSue Cummingsのアイデアだったとされています。

そして実際には、その手法をヒップホップのトリオへアイデアとして提示するのは簡単なことではなく、レコーディング時に至るまで衝突があったようです。

ヒップホップの創世記である当時はDJが同じレコードを2枚使用し、MCがラップを乗せるためのループをプレイしていました。ルービンとRun DMCの試みは、この時代の流行りに触発されて、元ネタとなる曲の出だしのフレーズとドラム・ブレイクを用いたという単純なものではなく、音楽の歴史における過去の遺産を再構築し、現在に引き継ぐものであり、Run-DMCをメインストリームへ押し上げるための大きなきっかけとなりました。

このアプローチは魔法のような働きを見せ、彼らのキャリアにおける初のビルボードトップ100入り(第4位)を果たし、世界各国でトップ10内のチャートインを飾りました。それだけではなく、それまで約10年ほど低空飛行だったAerosmithは、このスマッシュヒットを皮切りにふたたびその活動にエンジンをかけ始めています。

Beastie Boysの初期アルバムをプロデュースした実績だけではなく、彼が仕掛けたこの斬新すぎるコラボレーションもまた、ヒップホップが、アメリカや世界各国において、広い世間に受け入れられるための扉を開き、音楽のいち王道ジャンルとして認められるための先導役を果たしたといえるでしょう。

ルービンはまた、カントリーミュージックの伝説的存在であるJohnny Cash に対しても同様のアプローチで、彼の2002年のアルバム “American IV: The Man Comes Around” において、Nine Inch Nailsの中でも病的な1曲である ”Hurt” のカバーを収録することを提案しました。このアルバムの構想段階では、作品内でも最も異色な曲のように捉えられましたが、Cashはすぐにそれが素晴らしい曲であり、新しい化学反応をもたらしてくれる曲だと確信ました。もろく儚いこのカバー曲は、おそらくCashの最も有名な一曲として若い世代を魅了し、彼のキャリアの集大成ともいえる実績となりました。


実践してみよう:ありそうもないサウンドや、ジャンル、ミュージシャン同士を組み合わせてみましょう。今はまったく新しいサウンドを思い描くことが非常に困難な時代のため、ジャンル、カルチャー、時代、そして視点をかけ合わせることは、刺激的な音楽を恒常的に生み出すための手段として非常に有効です。音楽的に快適なゾーンに留まるのではなく、自分と違った要素を積極的に取り入れていきましょう。

音楽を聴くため、そしてあなたの脳のための時間と環境を作る

暗闇の中でのアルバムリスニングセッションを主催しているPitchblack Playbackのウェブサイトでは、下記のルービンの発言を引用しています:


「目を閉じて良い環境で音楽を聴く。その環境が良ければ良いほど、自分自身と音楽が簡単にひとつになるのです。最高のリスニング環境で、何もストレスがない状態で、目を閉じて、体全体で音楽を感じてみてください。」

めまぐるしい昨今では、本来音楽そのものに不可欠な、没入するための時間と空間を確保することが非常に難しいこともあります。家の中でも、デバイスや他人、その他よくわからないことに気を取られている人が多いのではないでしょうか。週に一度でも、ほかのことを気にせず音楽を聴くことに心から集中できる環境がある人は非常に恵まれているといえるでしょう。

音楽を集中して聴くという行為は、瞑想が精神に臨場感と落ち着きを与えるのと同様に、その音楽の力強さや豊かさを感じさせてくれます。あなたはその音楽が持つ斬新な要素に気づいたり、歌詞をよりいっそう素晴らしく感じたりすることもあるでしょう。アーティストがアルバムの全体、ひいては各楽曲を作るのに、どれだけの時間と労力を費やすのかをいま一度想像すれば、あなたも自分自身の音楽をリスナーにじっくりと聴いてもらい、楽曲が持つ素晴らしさを隅々まで味わってもらいたい・・・と考えると思います。

集中的なリスニングセッションは、斬新なアイデアや創造的なインスピレーションをもたらすこともあるでしょう。他のすべての雑念や刺激を心から遠ざけると、脳は、作業中や本を読みながら、または携帯電話をいじりながらのリスニングでは体験できないクリエイティビティに没入します。私たちは皆、クリエイティビティを開花させるための環境に身を置く必要があるのではないでしょうか。

このような体験を裏付けるように、ルービンは、14歳の頃から瞑想を自身の生活に取り入れています。Transcendental Meditation誌に対しては「アルバム制作にあたっては、各セッションごとに瞑想をする」とも語っており「Red Hot Chili Peppers の “Californication” 制作時も、各セッションごとに瞑想しました。毎回少なくともメンバーのうち2人は瞑想に参加し、時には3人、ごくまれに4人全員が参加していたという感じです。Tom Pettyと “Wild Flower” を作ったときも、セッションの前によく瞑想をしていました。沈黙を理解すればするほど、音楽そのものに理想的なバランスを与えることができます。

実践してみよう:目を閉じて集中して音楽を聞く時間を毎週1時間確保しましょう。また、瞑想を健康的かつ創造性を高めるための習慣として取り入れてみることもおすすめです。

予定調和からの解放(まるで「フリー」のように・・・)

ルービンが自身の仕事をする上でのモットーは、直近で成功したパターンとまるで逆のことをする、というものでした。ルービンは共同創設者としてDef Jam Recordsを立ち上げ、Beastie Boys、Run-DMC、LL Cool Jといったクロスオーバーなヒップホップアーティストを生み出した後に、ロックとメタルのフィールドへ進出していきました。1986年をスタートに、ルービンは長期間にわたってSlayerとアルバムを制作する関係式になり、1988年にDef Jamのパートナー達との関係が悪化したのをきっかけにルービンはロサンゼルスに移り、新しいレーベルであるDef American Recordsを立ち上げて、The Jesus and Mary Chainからコメディアンに至って幅広いプロデュースを手掛けました。この後、ルービンは自身の大きな成功の一つとも言えるRed Hot Chili Peppersのプロデュースを手掛け、90年代を通じて、Tom Petty、 Mick Jagger、そして前述のJohnny Cashといった60~70年代のレジェンドたちの作品を世に放ちました。

ルービンが手掛けるアーティストはより一層多岐にわたるようになり、ルービンは特定のジャンルやサウンドに縛られない、ハイレベルな結果を残すプロデューサーとしてその名をはせるようになりました。結果として、ルービンは自らの仕事に対する関心を持ち続け、トレンドに踊らされることのない精神を養うことができたといえるでしょう。

実践してみよう:楽曲やアルバムがヒットしたからといって、同じアプローチを繰り返す必要はない、ということを常に忘れないようにしましょう。だって、一度うまくいったことが、再びうまくいくかどうかは誰にもわからないですし、最も重要なことは、なによりも自分自身のために音楽を作る、ということなのです。あなたが聴きたいものではなく、ファンが聴きたいと思うであろうものを作ると、自分を追いやってしまい、自分のやっていることへ怒りや疑念を抱いてしまうことにもなりかねません。

無常を愛する

ソーシャルメディアに対するルービンのアプローチはとても風変わりで、かつ、彼が仏教から受けた影響を多分に感じさせるものとなっています。彼の各ソーシャルメディアのチャンネルでは、彼がこれまでに共有してきた珠玉の知識をもとにしたポストが投稿され、各ポストは次のポストが投稿される前に削除されます。つまり、彼のチャンネルには常に1つのポストしか掲載されていません。このアプローチは、ほとんどの人々が自分の人生や思い出をカタログ化しようとする、ソーシャルメディアにおける一般的なアプローチとは対極をなしているといえます。ですが、ソーシャルメディアに対するこの変わったスタンスは別として、その投稿自体は素晴らしいアドバイスでいっぱいです。ぜひInstagramでルービンをフォローし、このセクションで語られている内容を実感いただければと思います。

実践してみよう:あなた自身の音楽と創作活動へ没頭し、過去の成功や失敗、または将来成しえる可能性があることについても忘れてしまいましょう。今この瞬間に、あなた自身がワクワクすることだけに取り組んでください。また、ある程度の成功を経験しているという場合は、誰があなたよりも「うまくやっているのか」を心配したり、さらなる成功をただ欲しがるのではなく、今の状況に感謝し、楽しみましょう。

影響力を遠く、広く求める

仏教の教えに対する愛情と同様に、ルービンが受けた影響はアートからレスリングの領域にまで及び、その他大勢の音楽プロデューサーに類を見ないものとなっています。「私たちは音楽だけでなく、プロレスリングとモンティパイソンからインスピレーションを得ました」とRolling Stone誌へのインタビューでBeastie Boysについては語り、Roddy PiperやRic Flairなどのオールドスクールなレスラーが、彼らの騒がしくてわざとらしいキャラクター像に影響を与えたと述べました。「インタビューでわけの分からないことばかり言っている不良ラッパー、というアイデアは、すべてプロレスへの愛情から生まれたものです。」

ルービンは、2007年にコロンビアレコードの共同議長に就任した際、一部の従業員に対して、ニューヨーク近代美術館のプライベートツアーを実施しました。


「私たちはアートの世界の中にいる、ということをみんなに思い出させるためでした」とルービンはWIRED誌に語っています。「私たちが考えているのはビジネスのことだけではありません。私たちは素晴らしいアートのキュレーターもあり、ゆえに、素晴らしいアートで自らの周囲を取り囲むべきなのです。そして、アートそのものの力と、アートがどのように世の中に提示されているのかを感じることが重要であり、それこそが、私たちがどのようにアーティストと接し、どのように音楽を扱うべきかを示しているのです。」影響力を吸収するためのこの折衷的なアプローチは、彼が手掛けた多様なディスコグラフィーへ明確に反映されています。

実践してみよう:影響力に着目してアンテナを広げれば広げるほど、さまざまな人々と、さまざまなスタイルで、さまざまな機会に取り組むことができるようになります。本、映画、ポッドキャスト、旅行、芸術、科学、スポーツ、自然、料理など、どこからでもインスピレーションを得ることが可能です。日々の生活からのインスピレーションに対してオープンなスタンスで受け入れるようにし、何か面白いものに巡り合った際には、いつでもあなたの携帯電話にメモをとりましょう。このような習慣を持つことで、多面的かつ刺激的なアイデアを得ることができます。

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インスピレーションを得るのに適したポッドキャストとして、ルービンとMacolm GladwellのBroken Recordシリーズを購読することを強くお勧めします。Tame ImpalaからRZA、XL RecordingsのRichard Russellといったゲストがポッドキャストでルービンと対話し、フリートーク中で音楽に関連するあらゆるトピックに触れ、その過程でたくさんの知恵が共有されています。